4.無痛分娩は、いつ始めるのか

無痛分娩は、どのタイミングで始めるのか。これについては、施設間で大きく違うのが現状です。それは、その施設で無痛を担当する医師が、いつの時代に、誰に学んだかで、やり方が変わってくるからです。

① 
分娩が進んで、子宮口が開いてから開始
② 分娩が始まる前から開始


のどちらかという問題です。

今は、②の分娩初期から開始が一般的

 2000年初頭までは、1990年代の論文の結果から、「子宮口が4~5㎝開いてから無痛をするべき」と米国産婦人科学会でも推奨していました。なので、この頃の無痛分娩は①のように、ある程度分娩が進んでから開始するのが一般的でした。

 その後、医学の進歩やデータが新しくなり、2000年初頭の論文で「結局いつ開始しても、安全性や帝王切開率は変わらない」という大きな結果が出てきました。それを受け、米国産婦人科学会と米国麻酔科学会は2006年、「妊婦が希望した時期が、無痛分娩開始の合図」という声明を出しました。日本でもこれを指示し、以後②の分娩初期に開始というのが一般的になっています。

 これについて、副作用のところで書いていますが、「普通分娩で痛みがある方がお産が早い」というのは事実です。なので、「お産は少しでも早く終わる方がよいから、子宮口がある程度開いてから無痛を開始する」と考える施設があっても、それも正しいと思います。施設毎でやり方、タイミングが微妙に違うので、それを知った上で、自分のニーズに合った施設を選んでいけばよいと思います。

 また、この2択の選択については、ベースが「産科医」か「麻酔科医」なのかで変わってくる事が多いです。産科医の場合、無痛分娩に対して自体に後ろ向きの施設が多いです。というのも、「お産を安全に終わらせる責務」のある産科医にとって、早くお産が終わった方がお互いの安心につながるからです。今や「安全なお産が当たり前」の日本ですが、一昔前までは命がけの作業で、今でも何が起こるか分かりません。特に産科医の減っている昨今において、マンパワーが足りていないため、1秒でも早くお産を終わらせたいと思うのが心情です。なので「安全をより重視しているので、最後産む瞬間に痛みが軽減できていればいいでしょ」という考えに繋がります。

 一方、麻酔科医がベースの場合、「痛みを取るスペシャリスト」なため、お産の速さより痛みの軽減に重きを置きます。しかし、当然お産の安全性も大切です。そのため、痛くないギリギリの濃度、量、タイミングを見計らって薬液を入れていく必要があります。お産の経過、流れをコミュニケーションを取りながら進めていくため、麻酔科医は痛み経験に付きっ切りになる必要があります。

 結局、産科医と麻酔科医の両方が存在し、お互いの仕事に集中できるチームでお産に取り組むのが、一番安心かつ疼痛軽減につながると考えられます。

 無痛のできる施設が限られている日本という話をしましたが、現在日本で無痛分娩に、産科医と麻酔科医が同時にチームとしてお産に参加している病院はほとんどないのが現状です。

 当院では、毎週限られた日数しか無痛分娩を行っていませんが、産科医2名・麻酔科医1名がチームとなって活動しています。また、分娩開始前、痛みが始まる前から痛み止めの投与を開始しており、痛みのないお産を目指しています。

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