5.無痛分娩の副作用について

 無痛分娩にも欠点、副作用があります。講義をしても、質問が多い箇所でもありますので、少々詳しく書きたいと思います。

帝王切開率は、変わらない

 質問が一番多い項目です。帝王切開になる確率は、普通分娩と変わりません。ただ、普通分娩と変わらず10-15%あります。これは、例えば臍の緒が頸部に絡んでしまっていたり、胎盤に異常が出たりする時で、普通分娩であっても帝王切開になるような場合です。現在の方法なら、無痛分娩をしたから帝王切開が増えるというような事はありません。

吸引分娩は増えます

 帝王切開率は変わりませんが、鉗子分娩・吸引分娩というものは増えます。普通分娩の場合約20%程度ですが、無痛分娩の場合は42%まで増加します。

 無痛分娩を行うと、神経学のところでお話ししたように、痛みと一緒に運動神経も少し鈍ります。そのため、胎児を娩出する時に、「本気で気張ってください」と言っても、本人は100%の力で気張っても、体は50%くらいしか力が入らない事があります。その時、必要に応じて上記のような道具を使い事があります。
 現在は、右側の鉗子分娩は、道具が目に当たる可能性を考え、吸引分娩が一般的です。すっぽんのような物を頭に当て、機械で吸引して、外から引っ張って胎児が出てくるのを誘導します。引っ張る時間は非常に短く、胎児娩出の最後に、数秒程度だけ使用すると思って下さい。 吸引分娩を分かりやすく説明している動画がありました。よろしければ参考にしてください。アメリカで作成された動画を、自動翻訳で日本語にしているため、日本語が少し変ですが、よくできた動画です。

 吸引分娩を行うと、ほとんどの症例で「産瘤」ができます。吸引するため、引っ張られてタンコブのようなものが出来てしまいます。

 これはアメリカのサイトから見つけたものです。左頭部に少しタンコブのような形が認められます。これは一時的なもので、 頭蓋骨や脳が引っ張れているわけではなく、皮膚が引っ張られるだけなので、 後遺症なく数日できれいになくなります。

 無痛分娩と普通分娩を比較した場合、2倍程度無痛分娩の方が吸引が増えます。さらに、個人的な印象では、経産婦より初産婦の方が多い感じを受けます。

陣痛促進剤を、使用します。

無痛分娩の場合陣痛が微弱になるため、オキシトシンという陣痛促進剤を使用します。これについて色々ブログで散見されますが、現段階(2018年)での研究結果では、

① オキシトシンの生理的な分泌は痛みで誘発される。無痛分娩の場合、痛みがないので生理的な分泌が少なくなり、促進剤の使用が増える。
② 大規模なデータでは、高容量使うことで、帝王切開率が減る。
③ 促進剤を使用するなら、しっかりモニタリングしないといけない。

施設によっては、無痛分娩中に誘発剤を使用しない施設もあります。促進剤を使わない場合、数日にも渡って分娩する事になります。

 当院での考え方としては、
1⃣ 誘発剤を使用しないと麻酔の使用量が増えてしまい、麻酔中毒の可能性を考える必要がある事。
2⃣ 無痛の日は産科医三名、麻酔科医一名が出勤しており、出産にかかる時間が翌日までかかると、マンパワー不足によるリスクが出てくる事。

があり、大牟田という、都会と比較して医療資源・人材が限られてしまうため、安全を考えながら、必要に応じて使用するようにしています。

分娩時間は長くなるが、特に問題ない

 分娩時間は、腹筋の力がうまく出せなくなる事もあり、長くなる傾向にあります。一般的に、分娩全体で、初産12時間、経産6時間と言われていますが、これが1時間程度長くなるという論文が多く出ています。しかし、それによる副作用はなく、「長くはなるが、胎児に問題なければそれでよし」とどの論文も結論付けています。

38度以上の体温上昇

 普通分娩では2.4%の方が38度を超える発熱がありますが、無痛分娩は19.2%と、約10倍も体温上昇の確率があがります。論文では「38度以上の割合」を調べていますが、個人的な見解では、「38度まではいかなくても、みんな37度以上には上がっている」と認識しています。原因は様々言われていますが、基本的に胎児心拍に異常が無ければ大丈夫です。

 ただ、普通分娩では体温はほとんど上がらず、無痛分娩に慣れていない施設だと子宮内の感染と勘違いして緊急帝王切開になってしまう場合があります。胎児心拍や身体所見で異常がなければ、当院ではカキ氷を食べてもらったりして、体温を下げて様子を見るようにしています。

その他

 その他、最も多く出るのは皮膚のかゆみです。末梢血管が開くことによるもので、足を中心全体的にボワっと痒くなる感じです。コタツにずっと入っていると痒くなる感じです。特に問題ありません。

 他には少数ですが、吐き気や嘔吐、低血圧などもあります。ごくまれに重症化することもあるので、丁寧に診察しながら点滴や薬剤、体位などで対応していくことになります。

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