1.世界と日本の無痛分娩事情

世界の無痛分娩

日本ではあまり馴染みの薄い無痛分娩という分娩法ですが、世界から見れば至極一般的です。

アメリカでは1940年代から本格的に導入され始め、世界中で痛みのないお産について研究が盛んに行われるようになりました。20世紀後半には、アメリカやヨーロッパを始め、先進国では無痛分娩の方が多いという国もたくさん存在するようになりました。

日本では、様々な理由で無痛分娩の普及が遅れています。データ上では、2008年において全分娩数の2.6%が無痛分娩でした。この時期はまだ日本で無痛を行える施設は少なく、ネットより口コミで広まっている時代で、芸能人の方がブログに無痛分娩を行ったと書くと、軽く炎上するような時代でした。

それから徐々に広まっていき、2018年現在で6.1%のお産が無痛分娩が行われています。10年で2.5倍増えたのですが、無痛割合が70%を超えているアメリカやフランスなど、世界標準から考えると、まだまだ日本は遅れていると言えます。

遅れている大きく分けると、以下の3つになります。

① 古くからある迷信
② 施設・医師数の問題
③ お金の問題

一つずつ説明してみたいと思います。

古くからある迷信

私は田舎出身なのでよく耳にするのですが、「痛みに耐えて、始めて母親として自覚が出る」「痛みに耐えると、より元気な子供が産まれる」という迷信が存在します。
 これらは、どれも医学的根拠がありません。「母親への自覚」という感情については解明されており、オキシトシンというホルモンの関与がわかっています。子宮を収縮させることで赤ちゃんは出てきますが、その時に必要なのがオキシトシンです。赤ちゃんが産まれる時にはオキシトシンは体内で大量に作られます。
 このオキシトシン、別名を「愛情ホルモン」とも呼ばれていて、自分が母親であると自覚するには大切なホルモンです。無痛分娩を行うとそのホルモン分泌が一時的に減少すると考えれていますが、赤ちゃんの笑顔を見る事授乳することなど、赤ちゃんを可愛いという感情だけでもオキシトシンは分泌されます。つまり、産まれた後でも自然に母親としての自覚が出て来ることが医学的に証明されています。

当院では特に問題がなければ、産まれて2時間後から授乳の練習を行い、母親としての自覚を持っていただいています。

施設・医師数の問題

無痛分娩を行える施設は、全国的の産科院の40%程度です。地域差、偏在化もあり、まずは以下のサイトでご自身の近くの施設を確認してみてください。

厚生労働省による、都道府県別の無痛分娩施設の検索

 これは厚生労働省のサイトで、サイトの下の方に行くと各都道府県別に、施設名、電話番号に加え、医師数や去年の分娩数、そのうちの無痛分娩数なども掲載されています。
 基本的に、無痛分娩を行っているのは産科医の先生方が多いと思います。しかし、しっかりした施設での研修、教育を受けてきたかというのは、医師によってバラバラというのが現状です。痛みについては麻酔科医が専門なのですが、実は麻酔科医が無痛分娩に関わるのは極僅かです。これは根深い問題なので簡単に説明したいと思います。

・医師は何か専門を一つ決めて、たくさん勉強してその分野の専門医を取得します(例えば麻酔科専門医や産婦人科専門医)

・その専門医には期限があるので、更新をしなくてはいけません(麻酔科専門医は5年間毎更新)

・更新の際、条件が存在します(麻酔科専門医の場合、年間100例の全身麻酔経験や、学会点数など、細かく決められている)

無痛分娩をメインに仕事をすると、年間100例の全身麻酔が出来ません(無痛分娩は全身麻酔ではないためカウントされません)。無痛分娩のみを仕事にしていると麻酔科専門医が剥奪されてしまうため、結局週1回程度無痛分娩に携わる事しかできないというのが、無痛分娩に携わる麻酔科医が増えない最大の理由です。

無痛分娩を行うに当たり、産科医の方でも特に問題はありません。ただ、慣れない施設、忙しい施設での無痛分娩による死亡事故が稀に起きてしまったのも事実です。そこで、2018年3月に国と学会が一緒になって安全の提言をしました。

厚生労働省による無痛分娩の安全な提供体制の構築について

簡単に言うと、
・各施設、麻酔責任者を決め、安全管理はしっかりしましょう。
・起こり得る事故を理解して、何かあれば対応できる訓練をしましょう
・それらの実施について、各施設のホームページ上に書き込みしましょう
とした上で、
「無痛分娩する場合、硬膜外麻酔を100程度経験する事が望ましい」としています。

硬膜外麻酔100例というのは、実は結構な時間がかかります。麻酔科を専従で行っていても2年くらいはかかる数値です。
努力目標の数値ですが、もしより安全性を求めるのなら

・各ホームページの麻酔担当医が、「麻酔科標榜医」「麻酔科認定医」「麻酔科専門医」のどれかを有している(標榜医=認定医<専門医の順ですごい)
・もしくは 、厚生労働省のサイトを調べ、合計100例以上経験している施設を選ぶ

事で、国が認めるより安心した医療が受けれると思います。

お金の問題

分娩というのは「病気」ではないため、正常な分娩の場合は医療保険が適応されず、自由診療扱いとなります。その代わり、国からの給付金として、子供一人につき42万円が支給されます。自由診療という分野のため、食事や施設の豪華さ、出産費用は病院側が自由に決める事ができます。なるべく安い値段に設定し、給付金の42万円以内ですべてまかなえる施設もあれば、東京の一等地でフランス料理を食べながら出産する100万円以上かかる病院など様々あります。

無痛分娩の場合、この金額に加えてさらに費用がかかってきます。無痛分娩費用も自由診療のため、地域差や対応法(24時間対応や麻酔科対応などは一般的に高くなります)があり、5万円程度から20万円以上と幅があります。

当院は全国平均の10万円を無痛分娩料金としていただいております。普通の出産では使わない薬や器械を使用する実費の分と、普通より回診の数が増えたり、モニター管理が増えるのでその分と考えていただければと思います。

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